補助金の「もらえた後」にこそ商機がある — 交付決定後の実務を語る
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補助金というと「採択されるかどうか」に注目が集まりがちです。けれど実際に事業者がお金を受け取れるかは、採択のさらに先、実績報告や交付決定後のやり取りで決まります。
この解説は、補助金実務に長く携わる山本さんへのインタビューをまとめたものです。採択率と入金率のギャップ、多くの支援者が手を引く「空白地帯」、そこに残された仕事の価値について語ってもらいました。
採択されても、全員が入金までたどり着くわけではない
きっかけになったのは、事業再構築補助金のデータでした。これまで13回の公募が行われ、そのうち採択されたのがおよそ76,000社。そこから交付決定に進んだのが約69,000社、実際に入金まで至ったのが約60,000社という数字です(入金・採択とも概ね10回目までのデータをもとにした概算)。
数字の分母には少しばらつきがありますが、ざっくり見て入金率は8割台といったところ。つまり採択されても、最後の入金までたどり着けない事業者が一定数いるということです。
自分が途中まで関わった事業者で、交付決定まで支援したものの、その後の実績報告は引き受けなかったケースがあったそうです。後から「実際にはできていないらしい」という話が耳に入り、平均で2,000万円ほどにもなる補助金を受け取れなかった可能性があると聞いて、もったいなさを感じたといいます。
なぜ「交付決定後」が空白地帯になるのか
事業再構築のような大型の補助金では、交付決定額が平均で2,000万円前後になることも珍しくありません。半額補助であれば、事業者は3,000万円程度を一度は投じる必要があります。2,000万円規模なら融資でつなげる可能性も高く、残りの自己負担分をどうフォローするかも支援の一部になります。
ところが、この交付決定から入金までの区間は、支援する側にとって「空白」になりやすいところです。申請支援の報酬はそこまでに受け取り終えていることが多く、それ以降まで手厚く関わる人が少ない。事業者にとっては最後の入金こそが目的なのに、支援者側の関心はそこで途切れてしまいがちだ、という指摘でした。
言い換えれば、多くの支援者が離脱していくこの区間には、まだ手が入っていない仕事が残っているということでもあります。
実績報告は「伝言ゲーム」との戦い
交付決定後の実務で難しいのは、書類の作成そのものよりも、事務局とのやり取りだといいます。
不備の通知が来て、電話でのやり取りが続く。事業者を介した「伝言ゲーム」になると、事務局がどういう意図でその不備を指摘しているのかを読み取れないと対応できません。言われたことをそのまま伝えられても、意図がわからなければ動けない、という状態は経験がないとかなりしんどいところです。
事業者に伝えているのは、わからないことを無理に答えず、その場で「どういう意味ですか」と聞き返すこと。そして、できるだけ一言一句そのまま持ち帰ってもらうこと。場合によっては録音してもらうこともあるそうです。事業者が自己流に整理してしまうと、かえって意図が伝わらなくなるためです。
大阪のあるコンサル会社が破産した際、付き合いのある銀行から「あと1週間しかない実績報告を引き受けてもらえないか」と依頼を受けたこともあったといいます。中身を知らないまま短期間で入っても対応は難しく、逆に勝手を知っている人にとっては感謝されやすい業務になる。銀行との関係が深まるきっかけにもなる、という話でした。
「不備は必ず来る」と先に伝えておく
事業者に安心してもらうために有効なのが、あらかじめ見通しを共有しておくことです。
「不備は必ず来ます」「10回から20回くらいのやり取りが続くこともあります」と最初に伝えておく。実際、最低でも3回のやり取りは当たり前で、たった3回で終わればかなり順調な部類だそうです。極端な例では、実績報告に1年かかった事業者もいたといいます。
事業者は知らないからこそ余計に腹を立てます。「早い人もいれば1年かかる人もいて、どこに入るかは内容次第」と先に伝えておくと、「自分だけが遅いわけではない」と受け止めてもらいやすくなります。放っておくと被害者意識が支援者に向かいがちなので、事務局を軽い「共通の敵」として位置づけるくらいがちょうどよい、という現場感覚も語られました。
業者が協力的かどうかで手間が大きく変わる
見落とされがちですが、機材や設備を納める業者の協力度も実務を左右します。
慣れている業者なら、相見積もりまで用意して「これで出せると思いますよ」と段取りしてくれます。一方で、補助金に使うと伝えると値段を上げられるのではと警戒する経営者もいて、見積もり段階では補助金の利用を伏せたがるケースもあるそうです。
協力的でない業者に当たると手間は跳ね上がります。見積もりと請求書の内容が食い違い、理由書を100枚近く書かされたこともあったといいます。原材料の中身は業者でないとわからないのに、業者に聞いても言語化してもらえず、結局こちらで整理するしかない。ただ、こうした業者は特定の商品で独占的な立場にあることも多く、簡単に切り替えられないのが悩ましいところだ、とのことでした。
決めつけず、自分の解釈を正解と思わない
役所や事務局が相手の仕事で大事なのは、自分の解釈を正しいと思い込まないことだといいます。
「担当者がこう言ったから大丈夫」と考えても、それはその担当者がそう言っただけで、審査で通るとは限りません。同じ役所でも「この人はFAXでよい」「この人は持参してほしい」と対応が分かれることがあり、担当者に委ねられている部分が大きい。建設業許可で委任状を忘れやすいという自身の失敗も交え、「決めつけて進めるとろくなことがない」と振り返っていました。
裏を返せば、この仕事では支援者が何かを決定する場面はほとんどありません。決めるのはあくまで事業者であり、支援者に強い意思決定は求められない。そういう性質の業務でもあります。
継続的な関係が、次の仕事につながる
補助金実務の魅力として繰り返し語られたのが、事業者との関係が長く続く点です。
小規模事業者持続化補助金は実績報告から1年後の効果状況報告までで、比較的短め。ただし、ものづくり・事業再構築・新事業進出などは事業化報告の期間が数年におよび、なかには6年ほど付き合いが続くものもあります。その間は決算書に毎年目を通すことになり、会社の状況がよく見えてきます。
決算のたびに、補助金で導入したものがどれだけ売上や付加価値を生んだかを確認する必要があるため、自然と次の提案のきっかけが生まれます。個別のLINEで毎週連絡を取り合うのは難しくても、この期間なら無理なくこまめに連絡が取れる。DMや広告よりも、1対1のやり取りのなかで信頼が積み上がっていく、という見方でした。
補助金を受け取った事業者は、その体験を周囲に話したくなるものです。頼んでいなくても「知り合いにこういう人がいる」と紹介してくれることが増える。必ずしも狙った客層とは限らないものの、宣伝役になってくれるのが、うまくいくことの大きな効果だといいます。
なお、小規模持続化は入り口としては優れている一方、付き合いの期間が短い分、事業計画を作る段階で「その後どう売っていくか」の当たりをつけておかないと、次につなげる機会が限られます。入り口の設計が肝になる、という補足もありました。
AIで代替できるのか
「AIがあればできるのでは」という声について、山本さんは慎重な見方を示します。
事業計画は、薄い内容ならAIでも作れるかもしれないけれど、熱のこもったものは、使い手が相当に使いこなさない限り難しい。実務も定型文ではなく、その都度こまかく指示を出す必要があります。補正の指示が1回ずつ来るなかで「どこまで直したか」を管理するのも、結局は人の役目です。個別の対応をAIに任せるには、案件ごとの仕組みを作り込む必要があり、外部にデータをどう扱うかという問題も残ります。
阿久津さんが付け加えたのは、AIは「教えてくれる」より「拾ってくれる」道具だという見方です。会話のなかから必要な要素を拾い上げる。今回のインタビューも、そうやって後から拾えるという前提で聞いている、といいます。新事業のようにチャットで断片的に情報が来る場面では、指示文を整えてまとめ、最後にチェックする使い方が合いそうだ、という話も出ました。
結局のところ、AIを使えるかどうかだけでは勝負は決まりません。顧客をどれだけ理解しているか、AIをどれだけ理解しているか、手続きをどれだけ理解しているか。その三つの掛け算が差になる、という整理でした。
この仕事はどんな人に向いているか
補助金実務に向くのは、AIをある程度理解したうえで事業者と話せる人だといいます。
「AIがあればできる」と言い切る人がうまくいかなかったとき、その受け皿になれるくらいAIを理解し、事業計画に何が必要かを語れる。そのうえで、売り物を複数持っていて、事業を広げていきたい人。最初に補助金でお金を受け取った事業者は人に話したくなるので、横のつながりや上位商品へのアップグレードにもつながりやすい、という理由からです。
行政書士や士業の人にとっては、実績報告のような実務を入り口に、他の業務へ広げやすい仕事でもあります。もっとも、この業務は行政書士でなければできないものではありません。書類を代わりに書くのは代理というより使者に近く、行政書士法に触れるものでもない。行政書士の本当の強みは書類作成そのものより、大量の文章を読み解く力にある、という見方も示されました。
営業やプロモーションが得意でない人、値引き要求にうんざりしている人にとっては、見込み客と出会う場としても機能します。申請代行より責任は重いものの、その分だけ信頼を厚くできる可能性がある、というのがまとめでした。
パートナー募集
以上の背景から、補助金実務をともに担うパートナーを募集しているとのことです。交付決定後の空白地帯にこそ仕事の価値がある、という考えに共感できる方は、ぜひ声をかけてほしい、という呼びかけで締めくくられました。