人材開発支援助成金 事業展開等リスキリング支援コース完全ガイド2026|助成率75%・賃金助成960円
「新規事業を立ち上げたい、そのためには従業員のスキルを切り替える必要がある」「DX推進・ITスキル習得を社内で進めたい」――こうした取り組みを後押しするのが、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースです。経費助成75%、賃金助成1人1時間あたり960円という条件で、社員研修・eラーニング・外部講座まで幅広く対象になります。この記事では、対象訓練・申請の流れ・事業展開計画の書き方・支給申請まで、実務目線でまとめます。
人材開発支援助成金は、厚生労働省所管の助成金です。雇用保険二事業の枠組みで運営されており、雇用保険適用事業所であれば中小企業・大企業を問わず申請できます。コースは7つに分かれており、それぞれ対象訓練と助成内容が異なります。この記事で扱う「事業展開等リスキリング支援コース」は、新規事業展開・業態転換・DX推進などに伴う従業員のリスキリングを支援するコースで、近年の中小企業にとって最も使いやすい助成内容になっています。
「補助金」と「助成金」の違いをここで一度整理しておくと、補助金は経済産業省所管が中心の競争型(採択審査あり)、助成金は厚生労働省所管が中心の権利型(要件適合チェック)です。人材開発支援助成金は後者の「権利型」のため、要件を満たしていれば原則受給できる仕組みです。事業計画書の優劣で落とされることはなく、「条件をきちんと満たすこと」「事前計画届を必ず期限内に出すこと」が受給のいちばんの近道になります。
事業展開等リスキリング支援コースの基本
対象は「雇用保険適用事業所」|中小企業・大企業ともに対象
対象は雇用保険適用事業所の事業主です。中小企業・大企業を問わず申請できますが、助成率・賃金助成額は中小企業優遇です。雇用保険適用事業所として労働局に届出済みであることが前提のため、代表者のみの一人会社・個人事業主(雇用保険加入なし)は対象外です。雇用保険被保険者となっている従業員に対する訓練が助成の対象になります。
対象訓練は「事業展開」に伴うリスキリング
「事業展開」の幅は意外と広いです。新分野展開(既存事業と異なる分野への進出)、事業転換(主要な事業を変える)、業種転換(主たる業種を変更)、業態転換(製造業態の変更)、新たな取り組みによる生産性向上(DX推進・新商品開発・新サービス開発)など、自社にとって「新しい方向」と説明できる取り組みが含まれます。「単に既存業務を続けるための研修」では対象になりません。
助成率|中小企業は経費75%・賃金960円/h
中小企業の場合、経費助成率は75%、賃金助成額は1人1時間あたり960円です。大企業の場合、経費助成率60%、賃金助成額480円/hとなります。経費・賃金両方が同時に対象になるため、研修費用だけでなく「研修中の従業員の人件費の一部」も助成されるのが大きな魅力です。
- 名称:人材開発支援助成金 事業展開等リスキリング支援コース
- 所管:厚生労働省/申請窓口:管轄労働局
- 対象:雇用保険適用事業所の事業主(中小企業・大企業)
- 経費助成率:中小企業75%/大企業60%
- 賃金助成額:中小企業960円/h/大企業480円/h(1人1日8時間以内)
- 対象訓練:OFF-JT(業務を離れて行う訓練)が中心
対象になる訓練・対象にならない訓練
対象になる訓練
OFF-JT(業務を離れて行う訓練)が対象です。具体的には次のようなものが含まれます。
- 外部講師による集合研修 社外の講師・コンサルタント・教育訓練機関に依頼して、自社内・外部会場で実施する集合研修。DX推進研修、データ分析研修、新商品開発研修、マネジメント研修などが代表例です。
- 外部教育訓練機関の受講 商工会議所・専門学校・大学・民間教育機関の研修・講座を従業員に受講させるケース。受講料が経費助成対象になります。
- eラーニング オンライン学習サービス(Udemy Business・Schoo・グロービス学び放題など)の受講料が対象です。eラーニングは受講証明・受講ログの保存が支給申請の必須要件です。
- 通信制大学院・大学等の受講 通信制大学院・大学・専門学校への入学・受講も、事業展開に必要なリスキリングとして説明できれば対象になります。
- 社内講師による研修(要件あり) 専任講師の社内研修も対象になることがありますが、講師の要件・カリキュラムの要件など条件が細かいため、労働局への事前相談をおすすめします。
いずれの訓練形式でも、事業展開計画との関連性を説明できることが受給の前提です。研修内容と自社の新しい事業方向が線でつながった形で書類を整えることで、審査がスムーズに進みます。受講前に訓練計画届の提出が必要な点は全形式共通です。
対象にならない訓練
以下のケースは助成対象外になります。「やってから申請しよう」という進め方が最も多い申請失敗のパターンです。訓練を始める前に対象要件を確認することが重要です。
- OJT(業務を通じた訓練) 現場で先輩が後輩に教える形式は、別コース(特別育成訓練コース等)の対象になり、リスキリングコースでは原則対象外です。
- 代表者本人の研修 助成対象は雇用保険被保険者である従業員です。代表取締役・個人事業主本人の研修は対象外になります。
- 業務に直接関係のない研修 趣味・教養目的の講座、業務との関連性が薄い研修は対象外です。事業展開計画と関連付けて説明できることが必須です。
- 事前計画届を出さずに開始した訓練 訓練開始の原則1か月前までに訓練計画届を提出していない場合、「やってから申請」では助成対象になりません。
「対象外かもしれない」と感じた場合は、管轄の労働局に事前相談することをお勧めします。相談窓口では訓練内容や事業展開計画書の書き方についてもアドバイスを受けられる場合があります。
申請の流れ|事前計画届の提出が肝
人材開発支援助成金は「事前計画→実施→事後申請」の3段階です。事前計画届の提出を忘れると、訓練自体は実施できても助成金は受給できません。スケジュール管理がとても重要なポイントです。
各ステップで用意する書類の量は多くなりますが、厚生労働省から様式ひな形が提供されています。初めて申請する場合は管轄の労働局の窓口に早めに相談し、必要書類のリストを確認してから準備を進めることをお勧めします。
- ステップ1|事業展開計画書の作成 新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換・新たな取り組みによる生産性向上のいずれに該当するかを明示し、新事業の概要・目標・スケジュール・必要なスキルセットを文書化します。フォーマットは厚生労働省のひな形が公開されています。
- ステップ2|職業能力開発推進者の選任・事業内職業能力開発計画の策定 職業能力開発推進者を選任して労働局に届出、事業内職業能力開発計画を策定します。職業能力開発推進者は人事部長・総務責任者などの社内人材が務めるケースが多いです。
- ステップ3|訓練計画届の提出(訓練開始1か月前まで) 管轄の労働局に、訓練計画届・年間職業能力開発計画・事業展開計画書・訓練カリキュラム・受講予定者リストなどを提出します。原則として訓練開始日の1か月前までに提出する必要があります。
- ステップ4|訓練の実施 計画届通りに訓練を実施します。出勤簿・賃金台帳・タイムカード・受講証明・受講ログ・カリキュラムなどの記録を保管します。eラーニングは受講ログが必須です。
- ステップ5|支給申請(訓練終了2か月以内) 訓練終了から2か月以内に、支給申請書・出勤簿・賃金台帳・受講証明・領収書などを揃えて労働局に提出します。書類審査を経て助成金が振り込まれます。
ステップ4の記録保管は、支給申請の審査で最も確認される部分です。訓練実施中から出勤簿・受講ログ・領収書をまとめて保管する習慣をつけることで、ステップ5の書類整理がスムーズになります。
事業展開計画書の書き方|ここを押さえれば通る
事業展開計画書は、助成金審査の核となる書類です。以下の5要素を盛り込んでください。
1|現状の事業内容と課題
自社の主要事業・主要顧客・売上構成・課題を具体的に書きます。「市場縮小」「人手不足」「DX対応遅れ」「競合台頭」など、リスキリングが必要になる背景を明確にしてください。
2|新たな事業展開の内容(5区分のどれか)
新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換・新たな取り組みによる生産性向上のうち、どれに該当するかを明示します。新事業の概要・目標市場・想定顧客・スケジュール・期待される売上規模を書き起こします。
3|必要となるスキルセット
新事業を進めるために従業員に身につけてほしいスキルを書きます。DX人材育成ならIT基礎・データ分析・プログラミング・クラウド活用などのスキル、新商品開発なら商品企画・マーケティング・プロジェクト管理などのスキル、というように業務との関連を明確にしてください。
4|訓練対象者と訓練カリキュラム
誰に・何時間・どの内容で訓練を行うかを表形式でまとめます。受講予定者名簿(部署・氏名・職位)、訓練科目、訓練時間、訓練方法(集合研修/eラーニング/外部講座)、講師・教育訓練機関、訓練場所などを記載します。
5|訓練後の活用方針
訓練を終えた従業員を新事業でどう活用するかを書きます。「DX推進室の中核として配置」「新商品開発プロジェクトのリーダーに就任」「データ分析担当として部門横断業務に従事」などです。「訓練して終わり」ではなく「事業に組み込む計画」を示すことが重要です。
支給申請でつまずきやすいポイント
支給申請の段階でつまずく事業者に共通しているのは、訓練実施中の記録管理が不十分だったという点です。書類不備があると審査が長引いたり、一部の経費・賃金が認められなかったりする場合があります。以下の5点を訓練開始前に確認しておくと、申請時の手間が大きく減ります。
- 1. 訓練計画届の提出遅れ いちばん多い失敗です。訓練開始日の1か月前を1日でも過ぎると助成対象外になります。研修日程を決めたらすぐに計画届の作成に取り掛かってください。
- 2. 出勤簿・賃金台帳の不備 賃金助成の根拠書類として、出勤簿・賃金台帳・タイムカード・給与明細などが必須です。日々の記録が雑な事業所は、支給申請段階で書類整備に時間がかかります。
- 3. eラーニングの受講ログ未保存 eラーニングは受講証明書だけでなく、受講ログ(いつ・誰が・何時間・どの内容を学んだか)の保存が必須です。サービスによってはログ取得方法が違うので、申し込み時に確認してください。
- 4. 計画外の訓練を追加した 計画届に書いていない訓練を後から追加した場合、その分は助成対象外になります。変更が必要なときは計画変更届を事前に提出してください。
- 5. 訓練と業務の関連性説明が弱い 「事業展開」の説明が抽象的だと、要件未達と判定されることがあります。事業展開計画書・訓練カリキュラム・受講者リストの3点が、線でつながった構造で書かれているか確認してください。
申請書類の準備に不安がある場合は、訓練実施前に管轄の労働局またはJEED(高齢・障害・求職者雇用支援機構)の窓口に相談することで、必要な書類と保管方法を事前に確認できます。窓口相談は無料で利用できます。
他の補助金との組み合わせ|助成金は補助金と併用しやすい
人材開発支援助成金は厚生労働省所管の助成金、経済産業省系の補助金(ものづくり・IT導入・持続化等)と所管が違うため、原則として併用可能です。ただし、同じ経費に対する二重申請(補助金と助成金で同じ研修費用を申請)はできません。「補助金で設備を入れる→新事業を立ち上げる→そのリスキリングは助成金で」のように、経費を分けて使えば併用できます。
- ものづくり補助金 + リスキリング助成金 新製品開発のためにものづくり補助金で設備投資、社員のDXスキル習得はリスキリング助成金で進める、というハイブリッド型です。新規事業立ち上げの王道パターンとして使えます。
- IT導入補助金 + リスキリング助成金 IT導入補助金でクラウドサービスを導入、社員のIT活用研修はリスキリング助成金で進めるパターン。「ツール導入+人材育成」をセットで進められるのが強みです。
- 省力化投資補助金 + リスキリング助成金 省力化投資補助金で自動化機器を導入、機器の運用に必要な技能習得はリスキリング助成金で支援する形。「機器を入れただけで使いこなせない」を防ぐ組み合わせです。
補助金と助成金の組み合わせを検討する場合は、それぞれの申請スケジュールを並べて整理することが重要です。補助金の採択決定から事業実施、そのリスキリング訓練の計画届提出まで、時系列でスケジュールを組むことで申請漏れや期限超過を防ぐことができます。
今すぐ取るべき準備アクション
- 雇用保険適用事業所の確認(労働局窓口で確認)
- 職業能力開発推進者の選任(社内人材を1名)
- 事業展開計画書の骨子作成(5要素を文書化)
- 訓練カリキュラムの組み立て(外部講座・eラーニング・社内研修の組合せ)
- 訓練計画届の提出スケジュール確定(訓練開始1か月前を逆算)
- 厚生労働省 人材開発支援助成金:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080866.html
- 厚生労働省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000204924.html
- 厚生労働省 雇用関係助成金検索:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
- 厚生労働省 各都道府県労働局:https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shozaiannai/roudoukyoku/
- 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED):https://www.jeed.go.jp/
よくある質問
人材開発支援助成金は厚生労働省所管の「助成金」で、雇用保険法に基づく給付制度です。要件を満たせば受給できる「権利型」の制度のため、補助金(採択審査がある競争型)と違って事業計画の優劣で落とされることはありません。要件適合チェックが主な審査になります。
新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、新たな取り組みによる生産性向上など、自社にとって新しい事業の方向性を意味します。「単に既存業務を続ける」ではなく、デジタル化・新市場進出・新サービス開発などの方向への転換が必要です。事業展開計画書を文書化して提出します。
従業員を雇用していて雇用保険適用事業所であれば申請できます。ただし、代表者本人の研修は助成対象外で、雇用保険被保険者の従業員に対する訓練が対象になります。「自分自身のリスキリング」を目的とした申請はできない点に注意してください。
OFF-JT(業務を離れて行う訓練)が対象です。具体的には、外部講師による集合研修、eラーニング、外部教育訓練機関の研修受講、社内講師による研修(要件あり)などが含まれます。OJT(業務を通じた訓練)は別コースの対象になり、リスキリング支援コースでは原則対象外です。
訓練開始日の原則1か月前までに、管轄の労働局に提出する必要があります。「やってから後で申請」では助成対象になりません。早めに訓練計画を立てて、計画届の提出スケジュールを管理することが必須です。
経費助成の対象経費は1人あたり50万円程度、賃金助成は1人1日8時間以内・1コースの上限あり、というように細かい上限設定があります。1事業所あたりの年度内上限も設定されています。詳細は厚生労働省パンフレットで最新情報をご確認ください。
Well Consultant合同会社代表。行政書士として補助金申請支援に特化した実務を展開。中小企業庁認定の経営革新等支援機関として、ものづくり補助金・持続化補助金・IT導入補助金など主要補助金の申請書作成から採択後フォローまでを一貫してサポート。補助金採択件数157件・採択総額26億円超の実績をもとに、補助金コンサルとして独立・継続するためのノウハウを発信しています。
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