「売上が落ちてきたが、従業員は解雇したくない」――そういった状況で事業主を助けるのが雇用調整助成金(雇調金)です。景気変動・産業構造の変化などで事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、休業・訓練・出向によって雇用を維持した場合に、国が賃金の一部を助成する制度です。この記事では、制度の仕組み・支給要件・助成率・申請の流れを実務目線でまとめます。

雇用調整助成金は、厚生労働省が所管する雇用関係助成金の一つで、正式名称は「雇用調整助成金」です。景気変動・産業構造の変化・経済上の理由によって事業活動が縮小した事業主が、従業員を解雇せずに休業・教育訓練・出向によって雇用を維持した場合に助成されます。管轄の都道府県労働局またはハローワークが窓口です。

コロナ禍(2020〜2022年)に特例措置として大幅に拡充されたことで注目を集めましたが、通常期の制度としても長く続いている重要な助成金です。通常期の支給要件・助成率はコロナ特例とは異なりますので、過去の情報を参考にする際は現在の制度内容を必ず確認してください。

雇用調整助成金の仕組み(売上減少→休業→賃金の一部を国が補助)
図1:雇用調整助成金の基本的な仕組み

制度の基本|対象事業主・支給要件

対象となる事業主

雇用調整助成金の対象は、雇用保険の適用事業主です。法人・個人事業主を問いません。ただし、支給要件として「最近3か月間の月平均売上高等が前年同期比10%以上減少していること」(通常期の場合)など、経営悪化を示す客観的な指標が必要です。

対象となる労働者は雇用保険の被保険者です(短時間労働者を含む場合とコース・年度によって条件が変わることがあります)。派遣労働者や日雇い労働者は対象外となるケースがあります。最新の支給要領で対象者の範囲を確認してください。

支給の対象となる取り組み(休業・訓練・出向)

支給対象となる雇用調整の取り組み
  • 休業:事業主都合による労働者の一時休業(休業手当の支払いが必要)
  • 教育訓練:休業の代わりに実施する教育訓練(所定労働時間内に実施)
  • 出向:他の事業主への出向で雇用を維持する取り組み

最も活用されるのは「休業」です。事業主都合で従業員を休業させた場合、労働基準法第26条に基づき平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります。この休業手当の一部を雇用調整助成金で賄う仕組みです。教育訓練は、休業ではなく研修・訓練として活用する場合に支給対象となります。

支給要件の詳細|売上減少・計画届・休業手当

売上減少の要件

通常期の雇用調整助成金では、最近3か月間の月平均売上高等が直近の同期(前年同期等)と比べて10%以上減少していることが基本的な要件です。売上高が確認できる書類(売上台帳・決算書等)を用意しておく必要があります。

「売上高」の計算は事業所単位か企業全体かなど、細かい規定があります。複数事業所を持つ企業は計算方法に注意が必要です。また、設立後1年未満の企業など、比較対象期間が取れない場合は計算方法が変わることがあります。詳細は管轄の労働局またはハローワークに確認してください。

計画届の事前提出

休業を実施する場合は、原則として休業前に「休業等実施計画届」を管轄の労働局またはハローワークに提出する必要があります。計画届を提出する前に実施した休業は助成対象外となる場合があります。「実施してから申請すればいい」という考えは通じません。

雇用調整助成金の申請フロー(計画届→休業実施→支給申請→支給決定)
図2:雇用調整助成金の申請フロー

休業手当の支払い

助成を受けるためには、事業主が労働者に労働基準法第26条に基づく休業手当(平均賃金の60%以上)を実際に支払っていることが必要です。「休業させたが手当は払っていない」では助成対象になりません。賃金台帳・出勤簿で支払実績が確認できる状態にしておいてください。

助成率・助成額の計算方法

助成率と1日あたりの上限

通常期の助成率は中小企業で2/3、大企業で1/2です。また、1日あたりの助成上限額が設定されており、支払った休業手当の全額が補助されるわけではありません。上限額は年度ごとに改定されることがあるため、申請時点の最新額を確認してください。

事業者区分 通常期の助成率 1日あたり上限(目安)
中小企業2/3最新の厚生労働省資料を参照
大企業1/2最新の厚生労働省資料を参照

コロナ特例では助成率が最大10/10(全額)・上限額も引き上げられていましたが、通常期はそれより低い水準です。最新の上限額・助成率は必ず厚生労働省の公式サイトまたは管轄の労働局で確認してください。

計算式のイメージ

助成額の計算は「支払った休業手当の総額 × 助成率」が基本です。ただし「1日あたりの上限額 × 休業延べ日数」が上限となります。例えば、中小企業が5人を10日間休業させ、1人あたり日額6,000円の休業手当を支払った場合、支払総額は30万円。助成率2/3なら助成額は最大20万円(上限額内の場合)になります。

申請手順|計画届から支給まで

  • ステップ1|支給要件の確認 売上減少要件を満たしているか、比較期間の売上データを用意して確認します。要件を満たさない場合は申請できません。
  • ステップ2|休業等実施計画届の提出 休業を実施する前に、休業等実施計画届を管轄の労働局またはハローワークに提出します。計画届は休業開始日の前日までに必ず提出してください。
  • ステップ3|休業の実施・書類整備 計画届に沿って休業を実施し、出勤簿・賃金台帳・休業手当の支払記録を整備します。休業の実績が書類で確認できる状態を保つことが重要です。
  • ステップ4|支給申請 休業対象期間(判定基礎期間)終了の翌日から2か月以内に支給申請書と必要書類を提出します。書類の不備があると補正が必要になり、支給まで時間がかかります。
  • ステップ5|審査・支給決定 労働局による審査を経て支給決定。通常2〜4か月程度かかります。
雇用調整助成金の主な申請書類一覧
図3:雇用調整助成金の主な申請書類

申請時の注意点・よくある失敗

  • 1. 計画届を出す前に休業を実施した 最も多い失敗です。「後から届け出れば問題ない」は通りません。休業前の届出が原則です。
  • 2. 休業手当を実際に支払っていない 「名目上の休業」で手当を支払っていなければ助成対象外です。労働基準法上の休業手当支払義務も同時に満たす必要があります。
  • 3. 出勤簿・賃金台帳の整備不足 休業日数・賃金支払実績を証明する書類がなければ審査を通過できません。毎月の書類管理を徹底してください。
  • 4. 支給申請期限を過ぎた 判定基礎期間終了後2か月以内という期限は厳格です。期限管理を徹底してください。

雇用調整助成金と補助金の違い・組み合わせ方

雇用調整助成金は「雇用維持」のための助成金であり、ものづくり補助金・IT導入補助金などの「設備投資・IT化」のための補助金とは目的が異なります。売上が落ちている局面では雇用調整助成金で人件費を補填しながら、IT導入補助金で業務効率化を進めて人手不足に対応する、という組み合わせも有効です。

また、売上が大幅に落ちてもすぐに従業員を解雇せずに雇用を維持したほうが、事業回復後に人材が揃っているという点で長期的なコスト削減になることが多いです。雇用調整助成金は「人件費の一時的な補填」として、事業の立て直し期間を確保するための手段として活用できます。

今すぐ確認すべき準備ポイント

  1. 直近3か月の売上データを確認(前年同期比10%以上減少があるか)
  2. 就業規則・労使協定(休業時の手当規定)の整備状況確認
  3. 休業等実施計画届の作成・事前提出の準備
  4. 出勤簿・賃金台帳の整備・保管状況確認
  5. 管轄の労働局・ハローワークへの事前相談
出典・参考URL

よくある質問

Q雇用調整助成金の支給要件となる「売上減少」の基準は?
A

直近3か月間の月平均売上高等が前年同期比で10%以上減少していることが基本的な要件です(通常期)。ただし要件は年度ごとに変わることがあるため、申請時点の最新の厚生労働省資料を必ず確認してください。

Q雇用調整助成金の助成率はどのくらいですか?
A

通常期の助成率は、中小企業で2/3、大企業で1/2です。ただし支給上限額(1日あたりの上限)が設けられており、賃金の全額が補助されるわけではありません。最新の上限額・助成率は厚生労働省の公式サイトで確認してください。

Q雇用調整助成金の申請は事前に届け出が必要ですか?
A

休業等を実施する前に、計画届(休業等実施計画届)を管轄の労働局またはハローワークに提出することが原則です。計画届の提出前に実施した休業は助成対象外となる場合があるため、実施前の届出を徹底してください。

Q雇用調整助成金はどの業種でも使えますか?
A

業種の制限はなく、雇用保険の適用事業主であればほぼすべての業種で利用できます。製造業・飲食業・小売業・サービス業・建設業など、売上が減少した際の雇用維持に幅広く活用されています。

Q申請から支給までどのくらいかかりますか?
A

支給申請から支給決定まで、通常は2〜4か月程度かかります。書類の不備があれば補正対応が必要で、さらに時間がかかる場合があります。支給申請期限(休業等の対象期間終了の翌日から2か月以内)を守ることが必須です。